誰かが置きっぱなしにしてた犬の本をなにげな〜くパラパラみてたら、思いがけず健気で、読みいってた。なんて動物は健気なんだろう…!って、ちょっと、いやかなり感動。大体俺って見た目こんな厳ついけど、忠犬ハチ公とかさ、犬ぞりのジロウタロウ(だっけ?)とかさ、クイールとかさ、弱いわけ。ホントに。渋谷でハチ公前で待ち合わせすると、ちょっと涙ぐんじゃうわけ。 動物ってホントいい。人間も動物っちゃー動物だけど二足歩行だから、ちょっと違うんだよな。人間は裏切るし…って、なんか怨みがましい言い方になったな。とにかく俺はいじらしい動物が健気に生きてんのに弱い。だから、犬の本みてうっかり涙ぐんでたのを、佐助に見られてんのに気がつけなかった。「うう…」とか言いながら涙ぬぐったら、佐助に「泣いてんの?」って聞かれてビビる。
「さ、佐助!」
「え、なにその驚きよう」
「い、いたのかよ!」
「いたけど」
「いるならいるって言えよ」
「いや、一緒に部屋入ってきたし」
「そうだっけ」
「そうだよ」
そう言うと佐助はゲームに視線を戻した。マリオの陽気な音楽が聞こえる。デレデレッテデ。俺も、もっかい本見ようと思ったけど、これ以上見てたらマジ泣きするわ、これ、って思ってやめる。
「もう読まないの?」
えぇー!!見えてんのかよ!
「まぁ…」
「俺がいるから?」
「は?」
「泣いちゃうの見られたくないんでしょ」
「うっ」
「かわいいねぇ、政宗は」
「あ?」
「セックスも正常位しかできなそうなタイプだよね」
「はぁ!?」
「愛してるって言いながらセックスして満足するタイプだ」
「お前、何言ってんだよ!つーかまるで見てきましたっぽく言うな!」
「え、図星?」
「うっ」
佐助って時々おかしなこと(たとえば今みたいな)をいうから、反応に困る。でも困ってるなんて思われんのはシャクだから、平静を装ったら、佐助が、目の、前?(WHY?)
「なんだよ」
「ん〜」
「ぎゃっ!!!!な、なに服めくってんだよ!!!」
「気にしない気にしない」
「するだろうが!!!!」
やばい、やばい、佐助、なに考えてんだよ!って押し返そうとしたら、手も足も固定されてる。ぎゃー!!!力で勝てねぇからって技か!ずりぃ!
佐助の手が、手が、手がああああああ…!!!やばい、やばすぎるってマジでー!ガツンって近くにあったクッキーの缶をつかんで佐助を殴った。のに、きいてねー!!!こわっ!!佐助、こわっ!!マジ怖い、なんかいろんな意味でこわい、って思ってるとキスされて、俺のこわいは、いよいよリアリティを帯びる。
口ん中にベロ。噛んだのに、全然きいてないっぽいし。血の味すんのに、佐助は痛覚にびぃんじゃねーの!!!ドンカン!歯とかベロとか、舐められたり噛まれたりすると、びっくりするほどきもちよくて、なんかホント佐助が怖い。このキスは、多分、セックスに通じるキス、だ。そういうこと、を、意識してるキス、だ。
なんでだよ、意味わかんねーよ、なんで俺なんだよ、なんでお前なんだよ。全然わかんねーし、わかりたくもない。ただ、ひたすらに悲しい。なんか、裏切られたみたいな気分だ。佐助がこーゆーことするのは、俺が本当にキライか、本当にスキかのどっちかなんだ。でも、その両方に俺は傷つく。どっちにしたって俺は悲しい。俺をきらいなら、こんな方法でわからせないでほしかった。俺をすきなら、ちゃんと言ってほしかった。一方通行のコレは、ひどく、悲しい。
悲しさが、じわじわ俺のなかにひろがる。
でも、なんだか悲しすぎて涙もでない。
佐助のキスが、離れた。
「…ごめん」
「は?」
「こんなこと…するつもりじゃなかったんだ…」
「してから言うなよ!」
「ご、ごめん…」
え、ええー…なにこいつ…ほんとわかんねー…さっきまでの佐助とは打って変わってもう、いつもの佐助だし。いつもの佐助ならこわくないし。むかついたから固められてた足をはなして、蹴る。
「痛いって」
「うっせ!」
「だからごめんって」
「うっせ!減った!俺のキスが減った!」
「キスは減らないよ…」
「減る!どうしてくれんだよ!あほ!」
「責任ならとりますけど」
「なななななんの責任だ!!!」
「キス」
「いらねーよ!!」
「取らせてよ、責任」
「はあ!?なんでだよ!!いいよ!!事故だろ!?」
「本気で、そう思ってる?」
「は?」
まっすぐ、ビームみたいに、佐助の目が俺をとらえる。その瞳に浮かぶのは、俺をキライだからいやがらせみたいにキスをした色じゃない。多分、これは自惚れじゃない、佐助は、俺を、スキなんだ。もやもやしたものが、こみあげてくる。ちょっと、うっ、て込み上げてくる。
人に好きになってもらうのが、こんなに怖いだなんてしらなかった。俺を今までとりまいてたスキにこんな恐怖はなかった。もっと軽くてうすっぺらくて剥がれやすいものだった。残ったりしないで、時間がすぎたら忘れられるような、そんな。なのに、佐助の瞳のスキの色はいままでのそーゆーのとは違う。全然違う。怖い。
「俺、さ」
「…なんだよ」
「政宗がすきなんだよ?知ってた?」
「…え?」
言われたし。
俺達はうごかない。だるまさんがころんだ状態だ。なんとなく、動いたほうが負ける気がする。勝ち負けなんか、ねえのに。佐助のことば、頭のなかで響く。スキが俺を苦しめる。こんなスキ、わかんねえよ。
「政宗のこと、すきだよ。多分、政宗だから好き。すごく、好きなんだ。ごめんね、怖いでしょ?俺のこと。だけど、もう、俺は…」
佐助の指先がちょっと震えてる。
多分、普通はわかんないくらいだけど。
だけど、確かに佐助の指先は震えてるんだ。
「政宗…?」
震えてる、佐助の指先にそっと触れる。
ぎゅっ、て握ると、なんだかさっきの”怖い”の正体がわかる気がした。
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