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佐助が、入院した。
シャレじゃなくて、マジもんで、「痛い痛い」って言う佐助を俺はそんなやばいなんて思わなかったから「いたいのいたいのとんでいけー」とか言ってやるしかできなかった。佐助のいたいのは飛んでかないで、肺に穴を開けた。 佐助が入院して、俺は自分でもびっくりしたんだけど、見事な喪失感にかられた。佐助なんか別にいてもいなくても変わんね〜だろ〜と、たかをくくってた俺にはマジショック。佐助が当たり前にいるもんだったから、もう習慣みたいなもんになってたんだと思う。 政宗、って笑って俺を呼ぶ声がないのに寂しいなんてすら思った。 入院した病院にいくと、佐助は明日手術だっていう。
「いや〜政宗ごめんねぇ」
「いや、お前は悪くないだろ」
「だってジコカンリ、できなかったんだもん」
「さすけ…」
そんな嘘みたいな言葉で、俺を騙せると思うのか?そんな安いもので俺は騙されねーよ。俺にはちゃんと、怖いとか不安とか、ぶつけていいんだよ。って気付いてやれなかった俺はそういうこと、言ってらんねーけど…。 もしかしたら、佐助はちょっとそのせいで俺にそんなポーズなのかもしれない。自分のせいだってわかってるけど、それは寂しい。普通に寂しい。ホントに、寂しい。
物事はこうやってどんどん悪くなることがある。人生もそういうことがある。でもホントは悪くなり続けるなんてない、はずだから、俺はこれ以上悪くならないでほしいと思う。 人生って辛いことがつきもので、辛いことが起きると悪いことが重なって、なんかずっと悪いことが続くような気がする。たとえば今みたいに、佐助が病気になって入院してしまって、俺は佐助から信用してもらえなくて、佐助は不安を誰にも言わないで自分を責め続ける。
だけど、悪いことばっかじゃないだろうって、やっぱ俺は思う。 佐助はきっと治るし、俺は佐助を大事にするし、不安もいつかは笑い話になるし、自責は成長を促す。悪いことばっかじゃない、ちゃんとそこには希望がある。
俺がいま、すべきことは、きっと一つだ。
「佐助、」
「まさむ…」
頭をくしゃっ、と撫でる。佐助はびっくりするけど、みるみる顔をゆがめて泣いた。その涙をぬぐって、デコとデコをぶつけて俺は「大丈夫、大丈夫」を言う。佐助はハラハラ涙を流す。佐助はもう、さっきみたいな嘘はつかない。ただひたすら泣いた。その涙は不安をすべてさらけ出してて、俺は佐助に「大丈夫、大丈夫」を言い続ける。背中をさすってやる。 佐助の背中は熱い。
「政宗、政宗、政宗」
「うん、うん」
佐助は”怖い”とか”不安”とか言うのをためらってる。言葉にすると自分がどれだけ不安に思ってるのか正確に伝わらないってわかってるから。なかなか、言葉で、気持ちは現れない。そこにはいくらか脚色があるし、誠実であるほど嘘くさくなる。
佐助の不安は深い、姿形がかわることを恐れてる。たとえ内臓レベルの話だって、手術はやっぱ今までの自分じゃなくなってしまうような不安が生まれるに違いないんだ。だから俺は少しでもそれがなくなればいいと祈る。愛は祈りだ。祈りは届かなくたって、献身的に祈ればいつか届くに違いない。
だから俺は祈る。佐助のために、自分のために。
どんなにわかってやりたい、とか思っても、やっぱ完全にはわかりあえない。だけど、通じるために努力できるし、その努力はきっとすこやかに育つ愛になる。だから、俺は佐助をぎゅっとする。くっつけたデコをはなして、鼻にキスをする。佐助は泣きすぎて全体的にしょっぱいんだけど、まぁ、それは無視して、ちゅ、ちゅとキスをする。
「ははっ、政宗、くすぐったい」
佐助が笑う。泣きながら笑う。俺はもっともっと佐助を笑わせる。そのために、脇腹くすぐったり、髪をくしゃくしゃしたり、耳に息ふきかけたり、ちゃんとキスしたり。佐助も俺の腕にしがみつく。かわいそうなくらい痩せた指の力は弱い。早く良くなって、早く太るべきだと俺は言う。すると佐助は「退院したら、政宗が、なんか作ってね」と言う。それくらいしてやろうと思う、けどなんも言わないで俺はとにかく佐助をぎゅっとする。力いっぱいぎゅっとする。
愛しい、愛しい、離したくない、このまま。
苦しさが、グッと喉の奥から込み上げてくる。バカみたいだ、だけど、めっちゃ真剣。このまま、抱き合えたまま、世界が消えたって構わない。なんて、生まれて初めて、そんな物騒なことさえも思う。 だって俺は佐助のいない、四季を生きていけるはずがない。春も、夏も、秋も冬も、温かさをわけながら、汗をぬぐいながら、木枯らしに吹かれながら、寒さをしのぎながら、俺は今までもこれからも、きっと、佐助といたい。だから祈る。よくなった佐助を思う。
「早くよくなれよ」
「うん」
「早くお前とやりたい」
「ははっ、政宗盛ってるなぁ」
「ちげーよ、ぼけ」
「俺だって早く政宗とやりたいよ、ホントに」
そんなあほな会話をして、俺と佐助はちょっと大人のキスをする。ちょっとエロいキスをする。ぐちゅ、とかそんな音が鼓膜に響いて、いつもしてたキスやセックスを思いだしてしまうと、俺は不覚にも頬が熱くなった。
甘えるみたいに、佐助に触れられると、そこからなにか、やわらかいものが生まれんだ。幸せ、とかそんなのかもしれないものが、いっぱいになって辛くなる。辛くなったしんどさは、実際は心地いいもんで、俺はその辛さやしんどさまで含んで、好きだって思う。舌を絡めて、歯列をなぞるとピクと佐助の体が震えた。上あごや、下あご、咥内をくまなく弄んで、触れるだけのキスしてくちびるをはなす。離したはずのくちびるには、まだ、佐助の感触が生々しく残る。
「明日、がんばれよ」
「うん」
「治ったら続き、しよーな」
「うん」
指切り、げんまんをする。大丈夫だ、佐助。きっと大丈夫。もしも佐助が変わったって、俺は佐助をずっと大事にできる。手術なんかしなくたって、人は毎日毎日変わってる。髪の毛も爪ものびるし、皮膚や骨だって再生してる。変わらないでいられるわけ、ないけど劇的に変わるのはやっぱこわいし、自分じゃなくなってまうかもしれないって不安になるだろ。だけど、変わった中にだって、今までを内包してるはずだし、俺や佐助が共感したことは、かわらないはずなんだ。愛は脆い。けど、信じられないくらい強くなる。だから俺達は、きっと大丈夫。こんな不幸だって、そのうちすぐに笑い飛ばせる。
「あーなんか中途半端なかんじする…」
「んなこと言ってもやんねーからな」
「や、やられたら死ぬよ!マジで!」
笑う。 俺も、佐助も。 なぁ、がんばれよ、佐助。 俺のために、お前のために、俺達の、愛のために。
がんばってほしい。
祈りをこめて、俺は帰り間際、佐助のデコにキスをした。
戦え。 |