政宗殿の恋人が死んだのは、一週間前のことだった。 政宗殿の恋人はとゆう普通の名前で普通にかわいくごく普通の生活を送っている普通の子だった。一回くらいみたことがあったけれど、ほんとうに普通の子で、思わず「どこが好きなのでござるか?」って聞いてしまうくらいに普通の子だった。
政宗殿は「普通なとこが好きなんだ」と言っておられたから、やっぱりホントに普通の子なんだなぁって思った。政宗殿はさんのくれたお守りを持ち歩いていて、そういうことがあまり好きそうにない政宗殿がしていたから、俺はすごくいいことだと思った。
そういうのってすごくいい。 そういう愛情ってすごく、いい。
政宗殿はさんがだいすきだった。まわりが優しい気持ちになる感じに好きだった。さんといる政宗殿はホントに素敵だった。
それなのに、さんはその短い生涯を閉じてしまう。 理由は結核だとかそんなので、(詳しい病名はわからない、けれどとにかくそうゆうもの)野菊の墓みたいだ。と俺は思う。女の子が先に死んでまう物語みたいだと俺は思う。愛する喜びと、喪失する悲しみ。人をすきになると、必ずそれはついてまわるもんだけど、これはひどい、と俺はおもう。
それに、政宗殿はさんのお葬式にいけなかった。 なぜなら政宗殿はさんと恋仲だけど、同時に政宗殿は一国の主でもあった。どちらの政宗殿も政宗殿だけど、そこにイコールは結ばれない。それは仕方ないことなんだ。俺たちはちょっと特殊すぎて、愛する人の死に目にも立ち会うことができない。冷たいとか、そういうんじゃなくて、仕方ないんだ。自分の感情だけで生きていけないのはなにも俺らみたいな武士だけじゃない。みんな、どんな仕事でも、感情に正直になんて生きていけるわけがない。それでもやっぱり、大事な人のお葬式くらいにはでたかったにちがいないと思うと、ちょっと悲しくなる。政宗殿は、お葬式にはでれなかったけど、せめて彼女が空に戻っていくのをみようとしても、いったいいつ、どこで、葬儀が行われているかもわからなかったからそれもできなかった。政宗殿は、さんのことを思っている。
でも、それはもう届くことはない。 政宗殿はぼんやり窓の外を見ている。もしかしたら寝てるのかもしれないけれど。
政宗殿のほっぺたをつっつく。
「なんだよ」 「あ、起きてたでござるか」 「悪いか」 「いや、」
会話が続かない。というか、続ける気がしない。 慰めるとか、俺はするべきなのかもしれないけど、しない。 政宗殿が悲しんでるかどうかもわからないし、なにより政宗殿はさんが苦しんだり痛がったり死にたくなったりしてるときに、そばにいてやれなかったのだ。さんがクスリの副作用で髪の毛がぬけてしまって悲しんだりしてるときとか、これからどうなってしまうか不安な気持ちの時とか、吐き気やめまいや頭痛に悩まされてるときや、死ぬのがわかってても死にたくない!ってどうしようもない感情が爆発して大暴れしてるときとか、そういう時に、政宗殿はさんの体をだきしめてやることもできなかったし、「大丈夫、大丈夫」って背中をなでてやることもできなかった。さんが一番そばにいてほしいときにいてやれなくて、悲しむ権利があるのかどうかといったらどうなのだろう。 悲しむ権利は悲しむ義務を請け負わないとだめだ。ただ悲しい悲しいっていうのはその悲しみはその人にたいする悲しみではなくて、ただの自己偽善なんだ。偽善が悪いとはいわないけれど、無自覚の偽善はちょっといけないと俺は思う。 政宗殿は、ちゃんとこの悲しみを背負っていかないといけない。誰にたくしてもだめなんだ。政宗殿はちゃんとさんの悲しみを背負って、ちゃんと生きていかなくてならない。 その悲しみを安易に慰めて「俺ってかわいそう」とかそういう風に慰められてはいけないんだ。
俺は政宗殿にちゃんとしてほしい。 だって政宗殿は、政宗殿であってほしい。 だから俺は、政宗殿を慰めない。 だいたい、そういうことがあったからって、風邪を引いて寝込んだ俺の所に見舞いにちゃんと毎日きてるってゆーのはちょっといやだった。うれしかったのだけど、俺の見舞いにきてるのか、それともいけなかったさんの見舞いを俺の後ろにみてるのか。それだったら俺はすごく悲しい。政宗殿がきてくれるだけでうれしいのだけど、俺をちゃんとみてほしい。
なんて。政宗殿はちゃんと俺を見てくれている。これは俺のわがままだ。なんにでもこじつけて悪いほうに考えてまうのは俺のわがままだ。ほんとうは政宗殿が毎日、きてくれたこと、すごくうれしかった。死ぬほどうれしかった。そんな優しい政宗殿をせめるなんて、俺は何様なんだろう?
ごめん、政宗殿。俺、優しくない。
政宗殿が悲しくて苦しくて辛いのに、俺はすごいわがままで、不謹慎だ。
ズズッ。
「ゆ、幸村?泣いてんのかよ?」 「うう・・・」 「え、な、なにしたんだ?」
政宗殿のほうがきっと泣きたいのに。なに俺が泣いているんだ。情けない。 政宗殿は呆れてるのか、戸惑っているのか、なにも言ってこない。グスっ。 ただ、俺は、悲しい。政宗殿の求めてるものがわからなくて悲しい。政宗殿が笑ってくれないから悲しい。 いや、政宗殿が今笑える気分かっていわれたらぜったい笑えない気持ちだろうけど、でも、俺は政宗殿が笑えるようにバカなこといったり、心が慰められるようなことをいったり、悲しいことを少しでも忘れられるようなそんなことをしたりしなくていけないんだ。だって、俺、
(だって?)
(だって、ってなんだろう。)
(だって、って、その続きは?)
わからないけど、俺は政宗殿に笑ってほしい。
悲しみを少しでも和らげてあげたい。そうだ、俺は、政宗殿に優しくしたい。
「政宗殿、悲しいなら、泣けばいいでござる」
「え?」
「お守りの彼女、大事であったのだろう?政宗殿が彼女を大事にしておられるのが、某、すごい良いと思っていたのだ。それなのに、彼女が、居なくなったのでしょう?政宗殿、最後会えばかったのでしょう?ひとりぼっちで泣いてもだめだ、ひとりぼっちで泣くのなんて、泣いたうちにはいらない。だから、某の前で、泣いてくだされ。某の前でないて、泣いて、いっぱい泣いて、明日からもう泣かないで、彼女のこと、忘れないように、生きていけばいいでござろう。思い出すのは、辛いけれど、その辛さをちゃんと受け止めるように、今、政宗殿は泣いておくべきだ。」
「幸村…。」
「某、政宗殿になにもしてあげられない。それが、辛い。某が辛くなるのは、おかしいけれど、辛いのだ。政宗殿、俺は、辛い。」
ボタボタ、涙がズボンに垂れる。おかしいくらいの水滴。でも、水滴もいつかは止まるんだ。どんなにありえない位泣いたって、いつか涙はとまる。涙がとまったら、明日からまたちゃんと生きていけばいい。 だから、政宗殿。 俺、政宗殿にしてやれること、ちゃんとしてあげたい。さんにはなれないけど、俺は俺で政宗殿を支えたい。この悲しみは、この苦痛は、きっと無価値のものじゃない。政宗殿はこれからもちゃんと道を歩いていかなくてはいけないし、それはもう彼女と交わるものではないけれど、それはそれで仕方ないんだ。どんなに悲しくても、どんなに辛くても、生きている限り歩いていかなくてはいけないし、それを選らばなくてならない。 そのために、俺はちゃんと政宗殿を支えたい。政宗殿を支えたいのは、俺は政宗殿にすごく支えられてるからだ。ギブアンドテイク。 政宗殿が悲しいなら、俺も悲しいし、政宗殿がうれしいなら俺もうれしい。 トモダチってだけじゃない、でも家族でもない。
だけど、それでもいいと思う。
「・・・ありがとうな、幸村」
政宗殿はそう一言いって、一粒だけ涙をこぼした。
その涙は、俺が今までみたことのないくらいとても、キレイな、涙だった。
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